COVID-19感染症の原因となる新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、2019年に出現し、世界的なパンデミックを引き起こしました。COVID-19が今、なお蔓延し、予防接種の取り組みが進行中である現在、信頼できる血清学および疫学研究を実施するために高品質の検査が緊急に必要とされています。
抗体検査としても知られる血清学的検査は、個人の血液中のSARS-CoV-2ウイルスに対する抗体を検出します。SARS-CoV-2によって誘発される免疫反応を検出するための抗体検査には2つのタイプがあります。
1つ目は、感染に対する総抗体反応またはアイソタイプ特異的反応のいずれかを検出することにより、全体的な免疫原性反応を調べるものです。多くのELISAおよび免疫クロマトグラフィーの迅速検査キットが市販されており、ユーザは一般的な結合抗体を検出することができます。
2番目は、ウイルスのヒト細胞への結合を妨害し、その後の感染を阻止できる抗体の部分のみを検出するもので、中和抗体検査と呼ばれていれます。このような検査の代表的なものは、ウイルス中和アッセイ(VNT)です。このアッセイでは、生きたSARS-CoV-2ウイルスを用い、サンプルの存在下でヒト細胞との相互作用を確認して、ウイルスの結合を妨げる可能性のある抗体(中和抗体)がサンプルに含まれているかどうかを判断する必要があります。このアッセイ法は、既に十分に確立されており、さまざまな感染症に対する患者の免疫反応を調べるために使用されています。ただし、VNTは面倒で時間がかかります。検査が完了するまでに2-4日かかり、高度な専門知識が必要です。また、生ウイルスを使用するため、VNT検査は、特殊なBSL3の施設でのみ実施が可能です。VNTの代わりに、目的のウイルスタンパク質を発現するレンチウイルスなどの非感染性ウイルスを使用する検査もあります。このような疑似ウイルスを利用したウイルス中和検査(pVNT)は、BSL2レベルの環境で実行できます。しかしながら、pVNTに関しても結果を得るまでに時間を要する、実験のばらつきが大きい、高度な専門知識が必要、などVNT同様の欠点が多数あります。
VNTとpVNTの欠点を克服するために、Duke-NUS
MedicalSchoolのLin-FaWang教授の研究室では、新しいアプローチであるサロゲートウイルス中和検査(sVNT)を確立しました。sVNTは、生ウイルスや生細胞を使用せずにNAbを検出し、BSL2ラボで1-2時間のうちに完了できます。sVNTアッセイでは、SARS-CoV-2ウイルス
スパイク(S)タンパク質から精製された受容体結合ドメイン(RBD)と、宿主細胞受容体ACE2を使用します。この検査は、in
vitroまたはELISAプレートウェルでの直接的なタンパク質間相互作用によって、ウイルスと宿主の相互作用を模倣するように設計されています。その結果、この非常に特異的な相互作用を中和すること、つまり、従来のVNTと同じ方法で患者または動物の血清中のNAbによって阻害すること、ができます。