高産生安定発現細胞株の構築
哺乳動物細胞のタンパク質発現系では、タンパク質の適切なフォールディングや構築、さらにヒト様の翻訳後修飾が可能であることから、基礎/臨床研究や治療に使用するリコンビナントタンパク質の産生における主なシステムとして使用されています。この発現細胞を作製するための標準的な方法は、宿主細胞の転写、翻訳、分泌機能を利用することであり、細胞への遺伝子導入によりターゲットタンパク質やリコンビナント抗体を産生します。安定発現細胞作製の最終目的は、継代培養後も高い生産性が維持され、ターゲットタンパク質を特異的に産生する細胞株を構築することであり、これにより、生産規模のスケールアップや高い費用対効果の実現が可能になります。目的の達成には発現ベクター、細胞株のエンジニアリング、およびプロトコルの最適化が重要です。
研究用グレード安定発現細胞株と商業用グレード安定発現細胞株の違いは何ですか?
研究用グレードと商業用グレードの作製工程全般は同じですが、製品として多くの違いがあります。研究用グレード安定発現細胞株には通常、細胞株に関する情報のドキュメントは最低限の付属となります。しかし、商業用グレード安定発現細胞株には、医薬品製造等で提出が求められる法的書類の作成を容易にするために必要な各種の情報も提供されます。
研究用グレード細胞株と商業用グレード細胞株の比較
属性 | 研究用グレード | 商業用グレード |
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パイプライン | 創薬パイプラインの研究段階で使用する物質 | 研究、非臨床、臨床の各段階で使用可能な物質 |
使用用途 | 霊長類での研究には不適 | 霊長類での研究(GPL基準準拠の物質)やヒトでの臨床試験に使用可能 |
IND | INDを目的とした試験での使用は不可 | INDのための試験に使用可能(GPL基準準拠の物質) |
製造 | 生物学的製剤製造での使用不可 | 生物製剤製造に適合 |
施設 | 研究施設での生産用 | GPM準拠またはGMP認定施設での生産用 |
規制上の観点 | 規制上コンプライアンス:最低限または不要 | 規制上のコンプライアンス準拠 |
書類 | 必要最低限の細胞株作成履歴(必要な場合は、お客様にて、データ取得実験を実施いただく可能性があります。) | 法的書類作成を容易にする必要な情報を提供 |
安定性試験 | 通常、10回の継代培養 | 50~70回の継代培養 |
納期 | 商業用グレートと比較して短納期 | 研究用グレード細胞株作製サービスより長い |
細胞株と生物学的製剤製造との関係
モノクローナル抗体医薬やリコンビナントタンパク質医薬などの生物製剤は、ヒトや哺乳動物の細胞株を培養して定常的に生産されます。通常、これらの医薬品は以下の工程により産生されます。

生物製剤やワクチン開発の初期段階において、最新のGMP(cGMP)に準拠したマスターセルバンクおよびワーキングセルバンクの構築は極めて重要であるため、研究用グレード細胞株は、生物学的製剤の製造には適していません。単一のクローン細胞から構築されるセルバンクは、不純物や外来性感染性生物の混在がないことが確認されており、ロット間差がなく一貫した品質であることが基盤となっています。
生物学的製剤の製造工程
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Step | Details |
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細胞株の開発 |
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細胞増殖 |
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細胞培養 |
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回収 |
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精製 |
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ウイルス除去 |
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Fill & Finish |
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パッケージング、保存、QA、細胞特性確認 |
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安定性 |
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細胞バンクの特性解析
規制に準拠したマスターセルバンク(MCB)では、細胞の生存率、アイデンティティー、純度、安定性、細胞核学、腫瘍原性、無菌性:細菌や真菌汚染、マイコプラズマ、外来性ウイルス、種特異的なウイルス/レトロウイルス、などが検査されます。
CHO-K1-グルタミン合成酵素を用いた商業用グレードタンパク質発現細胞株
弊社は、動物成分を含まない合成培地(AFCDM)での増殖に適合した浮遊細胞、CHO-K1を宿主とした商業用グレードのタンパク質発現細胞株作製サービスを提供しており、非臨床や臨床試験で使用可能なタンパク質産生に適しています。創薬開発の初期段階でこのサービスを利用して頂くことで、開発にかかる時間や費用を削減することができ、GMPに準拠した製造への移行も可能です。弊社では、Glutamine Synthetase-based expression technologyによりタンパク質高発現細胞株を産生しています。これらの細胞株に対しては、十分な特性評価が実施され、細胞系統に関する書類も完備されているために、規制当局への申請を簡素化することができます。
弊社は、国際的規制に準拠する臨床用あるいは商業用のタンパク質生産を実現させるために、お客様のパートナーとして安定発現細胞株バンクの構築をお手伝いします。
抗体創薬を支援する情報とサービス
- Antibody Discovery:抗体創薬サービスにおける10年超におよぶ経験を基に、創薬の早期段階に対する様々なサービスを提供しています。例えば、弊社の抗体工学技術により、最大1010個のクローンからなる抗体ライブラリー構築が可能であり、抗体探索を促進させることができます。
- Antibody Sequencing:最新のシークエンシング技術を用いてモノクローナル抗体遺伝子のシークエンスを迅速かつ確実に決定するサービスを提供しています。
- Assays:独自開発のエフェクター細胞を使用したADCC/CDC試験により、リード抗体医薬の有効性や効力を検討します。
- Antibody Production:確立したリコンビナント抗体(rAb)産生技術により、抗体創薬の各段階においてµg~gレベルの精製rAbを産生し提供する包括的サービスです。
- お客様の要望に最適なサービスの検討にはRecombinant Antibody Service Selection Guideを参考にして下さい。